江戸川病院

社会福祉法人 仁生社

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診療科・部門|脳神経外科|機能的脳神経外科

機能的脳神経外科

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片側顔面けいれん:

顔面の片側にけいれんが生じる病気です。片側の目の周囲から始まって、年月をかけて、次第に口の方へ広がり、顔面半分に広がってゆく病気です。まれに、内服薬が効果ある患者さんもいますが、主な治療は、1)ボトックス注射を3-6か月に1回行ってゆく治療と、2)顔面神経を拍動性に刺激している頭蓋内の責任血管を移動させて、顔面神経を刺激しないようにする手術があります。頭部MRI検査や筋電図検査を行って確定診断いたします。

1) けいれんの特徴

左右のどちらか片側だけの顔面の筋肉がぴくぴくけいれんをおこす病気です。目の周囲からはじまり、数ヶ月から数年経過して、同じ側の口のまわりなど顔の下の方の筋肉へとひろがってゆきます。けいれんもひどくなると目を閉じてしまうようになり、車の運転などが危険になってしまうこともあります。緊張した時や、寝不足のときなどは、けいれんが増強する傾向が見られます。通常、左右どちらかにみられ両側にみられることはありません。

2) 原因

頭蓋内の小脳橋角部というところで顔面神経を動脈が拍動性に圧迫刺激することによって、顔面神経が過敏になり、顔面の筋肉が無意識にぴくぴくと引きつれるように動いてしまう病気です。

3) 診断

上述のけいれんの特徴に加えて、我々の施設では、誘発筋電図の検査を行っております。


筋電図検査による診断:目のまわりの筋肉を動かす神経を電気刺激しても正常者では、目のまわりの筋肉から筋電図反応が得られるだけですが、目のまわりの筋肉を動かす神経を刺激して、口の周りの筋肉からも異常な筋電図反応がみられるのが片側顔面けいれんの特徴です。また、顔面筋のF波という筋電図反応を記録していますが、片側顔面けいれんの患者さんでは、F波の亢進所見を認めます。筋電図検査は、筋肉全体の動きをみるために皿電極を顔に貼り付けて記録しますので、針を筋肉に刺す必要はなく、痛みの無い検査です。


また、画像検査では、MRIとMRアンギオ検査を行い、顔面神経を刺激している動脈を同定し、また、脳腫瘍や血管奇形などがこの病気に関与していないことを確認します。

4) 手術治療

神経血管減圧術を行います。顔面けいれん側の耳の後ろ、約6-7cm皮膚を切開し、500円玉強の大きさの穴を頭蓋骨に開けます。そこから、脳神経外科手術用顕微鏡を使用して、テフロンにより顔面神経を圧迫している動脈を移動させ、動脈による顔面神経の圧迫を解除します。この減圧部分は、小脳の影になって、小脳を牽引しなければ見えにくい部分です。この圧迫血管の観察に我々は 神経内視鏡を用いて小脳の牽引を最小限にしております。神経内視鏡下に安全に減圧操作を行っております。


手術中にも筋電図検査を行い、手術操作のめやすにしています。手術後もけいれんが一過性に見られることが少なくないように、手術により顔面神経への動脈による圧迫が解除されても、 異常筋電図反応はみられることもありますが、ほぼ全例で反応が低下してくるために手術中のモニターとして有用です。


この内視鏡による観察と筋電図モニター下に減圧することで、内視鏡導入以降顔面けいれんの術後の治癒率を100%に近づけております。


いままでの我々の経験から、術後すぐにけいれんが消失する人と少しずつけいれんが消失してゆく人と、ほぼ50%ずつに分かれます。半分の方は、次第にけいれんの程度や回数が減少し、いずれは消失します。この消失までの期間の平均値は約5ヶ月ですが、半数の患者さんは、1ヶ月くらいまでに消失します。


次に記載しましたボトックス治療の効果が悪い場合や反復注射治療をさけるために、ボトックス治療をやめて手術治療を受けることも可能です。

5) ボトックス治療

高齢者や全身合併症のために、全身麻酔や術後合併症のリスクが高く、神経血管減圧術が困難な場合、また、手術以外の治療を考えられる患者さんに対して、症状を少しでも軽減する目的でボトックス治療を行っております。薬が少ないとけいれんが消失する効果が少なく、薬が多いと軽い顔面筋麻痺となる危険はありますが、次第に注射の量を調整してゆくことで、けいれんを軽度の状態に安定させることができます。約3-6ヶ月でその効果が消失してきますので、再治療が必要となります。

三叉神経痛:

片側の顔面痛で、ものを食べたとき、顔を洗った時、歯を磨いたときなどに、顔面や口腔内に電撃痛、歯医者さんで虫歯の治療中に神経に触ってずきっとくる時の痛みです。治療は、1)テグレトールやリボトリールという内服薬と、2)三叉神経を拍動性に圧迫する正常の頭蓋内動脈を手術で異動させる治療とがあります。MR検査によって圧迫血管を判定できるようになってきましたが、圧迫血管のない三叉神経痛の患者さんが数%存在します。手術で治る患者さんもおり、画像をみながら相談して、治療を進めております。

三叉神経痛の特徴と治療

1) 痛みの特徴と診断、原因

片側の顔面痛で、ものを食べたとき、顔を洗った時、歯を磨いたときなどに、顔面や口腔内に電撃痛が走るのが特徴です。三叉神経が正常の頭蓋内動脈により拍動性に圧迫されることが原因です。痛みは左右どちらかにみられ両側にみられることは通常ありません。脳腫瘍が三叉神経痛の原因となることが、1%以下あると言われており、また、圧迫血管ではなく神経の癒着が原因のことも少数みられます。

2) 手術治療

1) 手術は、神経血管減圧術を行います。顔面痛側の耳の後ろ、約6-7cm皮膚を切開し、500円玉強の大きさの穴を頭蓋骨に開けます。そこから、脳神経外科手術用顕微鏡を使用して、テフロン片により圧迫血管を移動させて三叉神経の圧迫を取り除きます。また、神経の癒着やよじれを可能な限り、解除します。


2) 術中モニター:手術合併症として、聴神経が弱いため、片側顔面痙攣と同様に聴力障害が出る可能性があり、手術中に、聴性脳幹反応(ABR)といって、聴力のモニターを行います。


3) 術後経過観察:三叉神経痛は、手術直後から消失する患者さんが多いですが、少し痛みが残り、しばらくしてから痛みが消失する患者さんもおります。

顔面けいれん外来では

顔面けいれんが強くなって、目がとじてきてしまい仕事に支障を来すなどで、治療を検討したい場合に受診してください。また疾患の相談は紹介状なしでもかまいません。ボトックス注射で症状を軽減させるか、根本的治療として神経減圧術を受けるか、方法やリスク、治療後の経過などについてお話しします。まず、ボトックスの治療を受けて症状の軽減を図り、手術治療を受けようと思われた時に再検討することも可能です。片側顔面けいれんと診断がはっきりしない場合は、筋肉の反応をみる筋電図検査で診断することも可能です。

今までの我々の代表論文として、ボトックス治療の効果を示す論文(Ishikawa M et al. Treatment with botulinum toxin improves the hyperexcitability of the facial motoneuron in patients with hemifacial spasm. Neurol Res 32:656-660, 2009.) や神経減圧術の治癒率を100%に近づけるための論文(Ishikawa M et al. Microvascular decompression under neuroendoscopic view in hemifacial spasm: rostral-type compression and perforator-type compression. Acta Neurochir (Wien) 157:329-332, 2015.)、日本語での総説(石川眞実他.片側顔面痙攣の顔面神経核の興奮性亢進-顔面筋F 波による解析-.脳神経外科ジャーナル 19:50-56, 2009.)を発表しました。

三叉神経痛外来では

痛みの特徴から診断できますが、まず、内服治療を検討します。痛みが強くなって内服の量が多くなり、それでも痛みがコントロールできなくなってしまった場合には、手術治療を考えます。それぞれの患者さんの段階に応じた治療をご相談させていただきます。頭部MR検査で、まれな原因である脳腫瘍がないことを確認して、圧迫血管を同定します。圧迫血管がなくても、全く同様の顔面痛になることがあります。その場合も痛みが強ければ、同様の神経減圧術で三叉神経の癒着を取り除けると、顔面痛も消失します。ゆっくり安心して食事がとれるようになります。再発が少なくないこの手術では、圧迫血管を取り除くための手術の時に、あらたな癒着ができないようにすることも重要です。再手術後再発の難治性三叉神経痛に対しては、高精度定位放射線治療(トモセラピー)の段階的治療も検討中です。

 圧迫血管のない三叉神経痛の減圧術で、内視鏡で確実に癒着を取り除いて完全に三叉神経痛が消失した症例を報告しました。(Ishikawa M et al. Straightening the trigeminal nerve axis by complete dissection of arachnoidal adhesion and its neuroendoscopic confirmation for trigeminal neuralgia without neurovascular compression. Interdisciplinary Neurosurgery. 2017;10:126-129.)