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人工股関節の歴史

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本邦における人工股関節の歴史

日本における人工股関節の成り立ちを、歴史年代別に考えてみましょう。専門誌である日本人工関節学会誌(旧人工関節研究会誌)は昭和46年から発刊されるようになっていますから、そのころから人工股関節手術が開始されたことがわかります。


ここでは便宜的に、昭和46年から昭和50年代後半までを黎明期、昭和50年代後半から平成10年頃までを百花繚乱期、平成10年以後の統合期に分けて考えてみたいと思います。


それではまず黎明期です。

人工股関節の歴史

人工関節の原型

黎明期には、種々の人工関節の原型が現われました。この時期の人工股関節の特徴は、多くがセメント固定型であり、またステムがカーブしていることが多いことです。

このうち右上のチャンレー人工股関節は改良を重ね現在に至っていますが、その他のシステムは昭和50年代後半には消滅しました。


成績不良の為です。その当時の人工股関節は中々10年持ちませんでした。

人工関節の原型

チャンレー vs ミューラー

特に多く使われたのは、このチャンレー型とミューラー型ですので、少し解説してみましょう。この両者の差異はヘッドの大きさが32mmと22mmと異なり、またステムの大腿骨に挿入する部分がまっすぐなこととカーブしていることです。

結論から先にいえば、チャンレー型は成績が良く、ミューラー型は成績不良でした。


あとから考えれば手術が未熟とか、欧米人向けの人工関節が日本人には大きすぎたとかの問題もあったのですが、その当時原因として考えられたのはカップのポリエチレンが薄すぎて摩耗で早期に磨り減ってしまうということやステムがカーブしていると大腿骨の外側を突き破ってくる(ステム内反)可能性が高いということでした。

チャンレーvsミューラー

古典的対立期の結論

古典的対立期の結論

左の図のように、身体の重心は正中にありますから、ステムが曲がって入ると“かしいで”しまいます。これが成績不良の大きな原因のひとつでした。


右の図でX-Yが短ければ、ステムは緩むと大腿骨の中でかしぐより沈み込みます。勿論徐々に脚は短くなるわけですが、痛みは少ないので、それでも仕方ないと考えられました。


またその当時はカップに使用するポリエチレンの摩耗は避けられませんでしたから、ヘッドを小さくすることによってポリエチレンを厚くして、すり減っても長持ちさせようという考えが流行りました。

人工関節手術成績不良の犯人探し(その1)

人工関節手術成績不良の犯人探し(その1)

しかし同時に考えられたのは“骨セメントを使用することに問題があるのではないか?”ということでした。


骨セメントの原材料であるメチルメタクリレートには本来生体毒性があること、固まる時に発熱して周囲を傷害すること、固まった後ももろいので割れると人工関節が緩んでしまう、などの欠点があり、セメントを使用しない人工股関節ができないかという機運が盛り上がってきたのです。


百花繚乱期の始まりです。

百花繚乱期(昭和56年~平成10年)①

そこで昭和50年代後半から色々なアイディアが案出されました。この時色々な対立概念が現われ、ホットな議論が闘わされました。


例えば、

1、カップやステムの表面は骨とのフィッティングのデザインさえ良ければ、つるつるでも良いのか、表面はざらざら、つぶつぶの方が良いのか。

2、ざらざらとつぶつぶの間ではどちらが良いのか。

3、ステムの安定性を得るためには大腿骨のどの辺りにフィッティングさせたら良いのか。

4、人工骨頭型と従来型はどちらがより良いか。

5、骨と人工股関節の固着のためにアパタイト(人工骨)を表面に塗布した方が良いのか、等々です。

百花繚乱期

1、セメントレス人工股関節/2、マイクロアンカーリング間の優劣/3、近位固定 vs 遠位固定 について

セメントレス人工股関節_マイクロアンカーリング間の優劣_近位固定vs遠位固定

1、に関していえば、表面がつるつるなステムは早期に緩みを生じてしまうことが分かり使われなくなりました。


また2と3に関して言えば、つぶつぶでもざらざらでも、どちらも現在まで命脈を保っていますから、一応優劣不明ということになるでしょう。

4、バイポーラー人工股関節 vs 従来型 について

バイポーラー人工股関節vs従来型

4、人工骨頭型はポリエチレンが早期に摩耗することが分かり、ポリエチレンの摩耗粉が緩みの原因となることから使われなくなりました。

百花繚乱期の結論

百花繚乱期の結論

結果をまとめると、セメントを使わない場合のステム表面はざらざらかつぶつぶで骨に引っかかる方が良いこと、ステムと大腿骨をフィッティングさせる部位はどちらも可能だが、骨を温存したいこともあり、できれば近位(股関節に近い部位)が好ましいこと、またセメントを使わない場合の金属材料はチタン合金が良いこと等が解明されました。

人工関節手術成績不良の犯人探し(その2)

人工関節手術成績不良の犯人探し(その2)

これらの結果随分人工股関節の成績は改善しました。しかしなおカップに使用するポリエチレンの摩耗の問題が残りました。その摩耗粉で骨が弱ってしまう(骨融解)という問題が残されていたのです。そこでパーティクル(摩耗粉)病という言葉が生まれ、この改善が企図されました。


まずヘッドについて言えば、メタルヘッドよりセラミックヘッドの方が僅かですがポリエチレンの摩擦において勝ることが分かりました。


しかし大方の関心は、それならポリエチレンを使わなければ良いのではないかという方向に向かいました。

セメントの場合と同じですね!

統合期(平成10年頃~)

統合期(平成10年頃~)

この頃他の業種とも同様に、ディーラーの合併統合による製品ラインナップの整理や、この間の学問の進歩発展によってそろそろアイディアが出尽くした感があり、大幅なコンセプトの変更の可能性がなくなったことから、安定してきたと感じられるようになりました。

現在は第二次百花繚乱期!

現在は第二次百花繚乱期!

しかし、さらに検討は続きます。ポリエチレンを使わないとすれば、摺動面(関節面)は金属ー金属やセラミックーセラミックの組み合わせでどうか、

ポリエチレンにガンマ線を照射して硬化させたクロスリンクポリエチレンはどうか、ロボット手術はどうか、そしてMIS(ナビゲーションシステムを使う場合も使わない場合もあります)はどうか等です。あるいは第二次百花繚乱期といえるかもしれません。


この辺で随分現在に近づいてきましたが、では次にそれらの結果を見てみましょう。

まず金属ー金属の摺動面は金属イオンの発生が問題となり、使われなくなりました。セラミックーセラミックの組み合わせは、現在も使われています。

ただ初期にセラミックの破損事故が起きましたので、日本では主流となっていません。


多くの施設では、10年以上たってその優秀さが証明されたクロスリンクポリエチレン(ガンマ線照射で架橋結合を増やしたポリエチレン)と金属かセラミックヘッドの組み合わせが用いられていると思います。

MIS,ナビシステムやシミュレーションシステムについては現在もホットな話題ですので後述します。

セメント人工股関節の進歩(ポリッシュトステムの採用)

セメント人工股関節の進歩(ポリッシュトステムの採用)

この項の最後にセメント人工股関節にも一言触れておきましょう。この間セメント人工股関節はセメンティングテクニックの改善、ステムとセメントの接着を求めないつるつるの表面を持ったステムの開発等の進歩がみられました。しかしセメントそのものの材質の改善がみられなかったこと、短時間で硬化するセメント固定が一発勝負であるため、大方には敬遠されつつあるのが現状です。


それではいよいよ現状と今後の展望についてお話します。