江戸川病院

社会福祉法人 仁生社

江戸川病院

診療科・部門|脳神経外科

2024-04-05更新

髄膜腫

脳を取り囲む硬膜から発生してくる良性腫瘍ですが、脳を圧迫するようになり頭痛・運動麻痺などの神経症状がでると、手術が必要となります。腫瘍のできる場所により、手術の難しさがかわりますが、術中のナビゲーションや当院が得意とする術中電気生理モニター、更に、他施設にはない超音波モニターを行いながら最先端技術を用いた腫瘍摘出術を行っております。術前に神経症状がある場合には、できるだけ軽減するように、また、術後新たな神経症状がでないように工夫をしながら手術を行っております。

髄膜腫の特徴と治療:

髄膜腫は、脳を取り囲む硬膜、どこでも発生します。奥深い神経や血管に絡んだ部位にできるか、大脳の表面をとり囲む硬膜にできるかで、手術の難易度が変わります。腫瘍が大きくなってくると正常脳に脳浮腫が発生します。この浮腫が原因でも神経症状を出しますので、運動野近くの髄膜腫が運動野の脳浮腫をおこせば運動麻痺がでます。腫瘍が直接運動野を圧迫しても運動麻痺が出る可能性はあります。


大脳表面の硬膜から発生しても、運動野を圧迫したり脳浮腫によって運動麻痺が出現し、視覚野であれば視野障害が出現します。また、前頭葉の大きな腫瘍は、嗅覚障害や精神機能障害の原因となる可能性があります。


同様にして、脳深部に発生した脳腫瘍が、脳神経を圧迫して神経症状をだせば、視力視野障害、複視、顔面麻痺、聴力障害、嚥下障害、嗄声などの症状につながる可能性があります。

どこに発生する髄膜腫も、良性腫瘍であり、少しずつ増大するので、圧迫された脳や神経の症状はでにくく、腫瘍が5cm以上に増大してから神経症状をだして初めて診断される可能性もあります。


腫瘍の部位や特徴をよく検討し、手術摘出が必要な髄膜腫は、手術中の運動機能モニターや脳神経モニターを行いながら、超音波画像を術中にとって術中画像モニターも施行して、手術を行います。脳や神経が腫瘍にとり囲まれた時は、良性腫瘍なので、無理に腫瘍を全摘出せずに神経や血管を損傷しないように、神経や血管に腫瘍をつけて少し残すことがあります。

下垂体腫瘍 ハイビジョン内視鏡手術

頭蓋底部の鼻の奥、トルコ鞍近傍は、脳腫瘍の好発部位の一つで、鼻経由の経鼻的腫瘍摘出術を行うのが一般的となっています。


手術の適応は、①腫瘍の視神経圧迫による視力低下や視野障害が出現した場合、② 腫瘍による下垂体圧迫により下垂体機能不全症状が出現した場合(GH産生低下による小人症など)、③ ホルモン産生腫瘍により過剰に分泌されたホルモン症状が出現している場合(末端肥大症、クッシング病など)などです。


当施設ではハイビジョン神経内視鏡を用いて両側鼻孔からのアプローチで、腫瘍の境界をよく観察確認し、腫瘍を被膜ごと切除します。神経内視鏡の先端が30度や70度の角度がついたものに変更すると、海綿静脈洞側壁に癒着した腫瘍の摘出、頸動脈裏側の腫瘍の摘出、トルコ鞍外上方に進展した腫瘍など、確実に腫瘍を摘出できます。必要に応じて、視神経や外眼筋モニターを行い、血管が近いことから、当院で得意とする超音波内視鏡により、残存腫瘍の確認や、頸動脈の位置確認を行って腫瘍を安全確実に摘出します。髄液漏が生じた場合には、必要に応じて鼻中隔粘膜を用いて粘膜弁を作成してトルコ鞍底の形成を行い、髄液漏閉鎖を行います。

下垂体外科外来では

小さい腫瘍は経過観察可能な場合も少なくありません。MRI検査で視神経への圧迫や下垂体ホルモン採血検査により、手術の必要性を検討します。ハイビジョン内視鏡、蛍光内視鏡、超音波内視鏡などをどのように使用して手術すすめるかご説明します。頸動脈や視神経などに癒着した腫瘍は無理には剥離摘出せず、残存腫瘍の大きさにより、高精度定位放射線治療(トモセラピー)の追加を検討します。手術をしなくてもよい患者さんは、定期的MR検査を外来で行って、腫瘍の大きさの変化をチェックしてゆきます。

超音波内視鏡を用いた手術を論文に報告しました。(Ishikawa M et al. Endonasal ultrasonography-assisted neuroendoscipic transsphenoidal surgery. Acta Neurochir (Wien) 157:863-868, 2015.)

グリオーマなどの悪性脳腫瘍

脳の細胞は、主に神経細胞とグリア細胞です。このグリア細胞の腫瘍が悪性脳腫瘍の代表的なグリオーマです。脳のどの部分にも発生し、その発生した部分の脳は圧迫されて神経症状をだしますので、運動麻痺や失語症などで発症することがあります。しかし、腫瘍全体を手術で摘出すると、その中の機能している神経細胞も一緒に摘出されることになり、その神経細胞の機能が消失してしまいます。したがって、腫瘍はできるだけ多く摘出することが大切ですが、術後神経症状につながらない部分の摘出をすることが大切になります。


その術後後遺症が出ないように、当院では、電気生理学的モニターとして誘発電位や誘発筋電図の測定を行い、東芝の最新の超音波装置を用いて脳や腫瘍の部位や形状を、必要に応じて超音波専用造影剤も用いて、術中に腫瘍や周囲血管のモニターを行って安全に腫瘍摘出を行います。5ALAという蛍光薬剤も用いて、術中の腫瘍蛍光画像を参考に腫瘍摘出を行うことができます。


術後の化学療法は、腫瘍組織診断の結果により、最も効果がある薬剤の投与を施行いたします。それに加えて最近では、アバスチンという腫瘍浮腫の改善効果のある薬を患者さんに応じて使用します。早期から使用することで腫瘍血管の新生を抑えて腫瘍の成長を抑える効果も我々は実感しており、患者さんごとにもっとも適した有効な化学療法の検討が必要となります。


さらに放射線治療としては、当院特有のトモテラピーという悪性腫瘍専用の放射線治療を行っいます。現在一般的に行われている放射線治療は、正常脳へのダメージが大きく、照射線量に制限があります。トモテラピーという特殊の方法では、正常脳への照射を減らして腫瘍への照射を増やすことが可能です。現在一般的、保険診療として可能な放射線治療で、脳悪性腫瘍に対して、最も優れた治療方法ということができます。詳しくは、当院トモテラピーのホームページをご参照ください。通常の放射線治療を終了し、追加照射できないのが一般的ですが、照射の方法を工夫されたトモテラピーでは、追加照射をそれ以上に効果的に施行することが可能です。


当院での脳悪性腫瘍、いわゆるグリオーマに対する治療は、トモテラピーという放射線治療を念頭において、当院が得意とする電気生理学的モニターと超音波モニターを行いながらの開頭手術を行い、アバスチンを含めた化学療法を、入院外来と患者さんの状況に合わせて行うように工夫しております。

聴神経腫瘍

聴神経腫瘍の特徴と治療


聴神経から良性腫瘍が発生します。聴力障害の精査で発見されることも多いですが、腫瘍が大きくなると、バランスが悪くなって歩行障害が出現します。聴神経のすぐ近くにある顔面神経に摘出時の障害が加わると顔面麻痺になってしまうため、術中筋電図モニターを行いながら、術後の顔面麻痺がでないように腫瘍の摘出を行います。術前に聴力が残っている場合は、術中に聴神経モニターを行いながら、なるべく聴力も残るように腫瘍摘出を行います。


聴神経腫瘍は良性脳腫瘍のひとつで、内耳道という側頭骨内から発生して増大することが多い腫瘍です。聴神経には、音を聞くときに機能する蝸牛神経と平衡感覚に関係する前庭神経とがあり、通常前庭神経から発生しますが、初発症状は、聴力低下が多く、ふらつきなどの平衡機能障害も腫瘍の成長とともにみられてきます。腫瘍に顔面神経も圧迫されると、顔面神経麻痺がみられることがあります。顔面神経麻痺は、片側の顔の筋肉が動かなくなり、顔がゆがんでしまう症状です。

聴神経腫瘍は、耳の後ろの後頭蓋窩という後頭部の外側に発生します。良性腫瘍ですが増大すると、聴力障害、平衡機能障害、顔面神経麻痺のほかに、小脳や脳幹の圧迫症状が出現して生命にかかわってきますので、手術による腫瘍摘出が必要です。


術後症状を出さないための当院が得意とする聴神経腫瘍摘出術時の電気生理学的モニタリングは、以下の通りです。


1) 腫瘍に押された顔面神経がどこにあるか。術野で電気刺激して、顔面筋から筋電図反応を記録することで顔面神経の位置が確認できます。刺激の強さと記録電位の大きさにより、刺激部位から顔面神経までの距離を推定します。


2) 腫瘍よりも脳側で電気刺激をして、顔面筋から筋電図反応を記録します。腫瘍摘出中にこの反応を記録し、この反応を維持しながら腫瘍を摘出し、顔面筋麻痺が術後出ないようにします。


3) 有効な聴力が残されている場合、聴性脳幹反応(ABR)といって、手術中にイヤホンから音を出して頭皮上からその反応を記録する方法を行います。この反応が低下しないように腫瘍摘出を行うことによって、聴力が残せる可能性がありますが、術前から聴力障害が強い場合はその回復は困難です。術前の聴力が良好に残存している場合は、ABRや聴神経からのCNAPという電位を直接記録し、腫瘍の中の聴神経の位置を確認し、聴力保存をめざします。


手術後は、めまい、ふらつき、嘔気嘔吐がある程度みられますが、その程度や持続期間については個人差があります。これは、主に、腫瘍摘出中の小脳の圧迫による症状です。我々は、手術中の患者さんの体位を工夫して、この小脳圧迫を最小限にし、術後症状が軽減できるよう努力しています。

聴神経腫瘍・頭蓋底腫瘍外来では

聴神経腫瘍の手術適応や、モニター下顕微鏡手術について、また、高精度定位放射線治療(トモテラピー)可能かどうか、または両方を行うか、それぞれの患者さんに応じた治療を検討します。電気生理学的モニターで、まず顔面麻痺がでないような手術を計画します。聴神経腫瘍の他の神経鞘腫や髄膜腫などの良性腫瘍についても同様に治療を検討します。術中ナビゲーション・電気生理学的モニター・超音波エコーモニターを説明します。手術難易度の高い腫瘍症例は、術前から術中まで、当院脳神経外科顧問・慶應義塾大学脳神経外科名誉教授河瀬斌先生とも相談の上、手術機器から手術経験まで最高水準の手術を進めています。

脳腫瘍術中の高性能超音波モニターを論文発表しました。(Ishikawa M et al. Neurosurgical intraoperative ultrasonography using contrast enhanced superb microvascular imaging –vessel density and appearance time of the contrast agent. Br J Neurosurg 2020; 10.1080/02688697.2020.1772958)

2.6cmの大きさの聴神経腫瘍の患者さんの電気生理学的モニターを用いた聴力保存手術を報告しました。顔面麻痺はもちろん、聴力低下なく今まで通りの生活をされています。聴性脳幹反応ABRが回復しました。(Ishikawa M, et al. Cochlear Nerve Action Potential Monitoring for Preserving Function of an Unseen Cochlear Nerve in Vestibular Schwannoma Surgery. World Neurosurg. 2017;106:1057.e1-7.)

転移性脳腫瘍:

体のどこかに癌ができて、それが脳に転移したのが転移性脳腫瘍です。腫瘍周囲の正常脳に浮腫が広がる特徴があり、正常脳に及んだ浮腫や、腫瘍そのものの脳圧迫によって運動麻痺などの神経症状が出ている場合には、ある程度大きくなった腫瘍本体を摘出することで、その神経症状が改善する可能性があります。

転移性脳腫瘍

腫瘍本体へは、手術ナビゲーションによる腫瘍の位置確認だけでなく、東芝の最新超音波装置による術中のモニターを行い、手術中に随時正確に腫瘍の位置を確認して腫瘍摘出術を施行します。悪性グリオーマ同様に、当院特有のトモテラピーという悪性腫瘍専用の放射線治療を行って、治療効果を高めます。

脳腫瘍高精度定位放射線治療外来では

たくさんあって治療できない場合や、治療してきたものの脳転移の再発でこれ以上の治療が難しい場合でも、さらに高精度定位放射線治療トモテラピーができる場合があります。手術と高精度定位放射線治療トモテラピーの組み合わせによる総合的治療を検討したい方、画像を持参して(治療歴があれば、できるだけ紹介状を持参していただき)外来を受診してください。このページでご紹介したような患者さんの治療も可能な場合があります。江戸川病院放射線治療医、浜幸寛先生と相談して最適な治療を検討します。脳腫瘍が増大しないことと、脳浮腫のコントロールが重要です。高精度定位放射線治療トモテラピーは再治療も可能です。

くも膜下出血

主な原因は、脳動脈瘤の破裂です。3DCTアンギオや脳血管撮影により術前診断を行い、脳動脈瘤クリッピング手術を行って、脳動脈瘤破裂の再発を予防します。未破裂脳動脈瘤が発見された場合にも、ご本人やご家族とよく相談して、破裂予防のクリッピング手術を検討しています。

くも膜下出血の原因と治療

くも膜下出血は、死亡する確率も高い怖い病気のひとつです。その原因は、脳動脈瘤の破裂によるものがほとんどで、動脈瘤からの再出血予防のために、動脈瘤にクリップをかける開頭手術を全身麻酔下で行います。脳神経機能モニターとして、運動誘発電位による筋電図モニターを行います。超音波ドップラーにより動脈瘤クリッピン後も主幹動脈や穿通枝の血流が保たれていることを確認します。


脳ドックなどで脳動脈瘤が発見され、くも膜下出血を発症していない患者さんも、1例ずつ検討して手術の最適な方法を検討しております。


また、動脈瘤が破裂して救急外来へ搬送されたくも膜下出血の患者さんも、発症後の状態に応じて、急性期の開頭クリッピング手術を必要に応じて行います。

脳出血:

出血の大きさによっては、開頭血腫除去術や内視鏡による血腫除去術を施行します。出血部位、大きさ、その時の内服など、総合的に治療効果が得られる場合に、手術を行っております。出血の量が多く命にかかわる場合には、救命のための手術を行います。それほど出血量も多くない場合でも、血腫を除去することでリハビリを早期に行え、廃用症候群を避けることができる場合には、手術を検討しています。

脳梗塞:

頸部の内頚動脈が狭窄し、脳梗塞となる危険が高い場合には、狭窄部位の内膜剥離術を行います。狭窄部位の位置や石灰化、既往症などから、血管内治療と外科的内膜剥離術の適応を決定いたします。動脈硬化性の内頚動脈閉塞や中大脳動脈の閉塞で、脳梗塞再発のリスクが高い場合には、浅側頭動脈と中大脳動脈の吻合による血行再建術を施行します。

脳梗塞とは

脳梗塞の原因である動脈硬化により、脳血管がつまったり細くなると、脳への血流が低下して、半身麻痺や言語障害がおこり、脳梗塞となります。


動脈硬化の予防が脳梗塞発症の予防となります。内頚動脈など太い脳血管の狭窄や閉塞は、内科的治療を行いながら、手術治療を検討することになります。症状のない方のチェックは脳ドックなどでの頭部MRIやMRアンギオなどで脳血管などの検査を行い、糖尿病・高血圧・高脂血症などの危険因子のチェックを行います。主幹動脈の狭窄や閉塞の見られる場合に、脳神経外科を受診していただき検査の結果で、手術適応を検討しております。


前ぶれのない最初の発症が、半身麻痺などの後遺症を残す脳梗塞となり、リハビリなど最善の手を尽くしても社会復帰が難しいことも少なくありません。高血圧・糖尿病・高脂血症・喫煙など脳梗塞危険因子のある方は、食事や運動など生活習慣の改善と内服治療による脳梗塞の予防が必要です。

頚動脈内膜剥離術(CEA)

最近は、日本人の食事の欧米化に伴い、頚動脈の動脈硬化性病変が増加し、頚動脈狭窄症が脳梗塞の原因として注目されています。脳梗塞が軽症で落ち着いたり、脳梗塞の1歩手前の一過性の脳虚血症状のみで、その原因が頚動脈の狭窄の場合、その狭窄部の肥厚した内膜を剥離して取り除き、血管を太くして脳血流を確保するのが、頚動脈内膜剥離術です。


無症候性の頚動脈狭窄と診断された場合、頸動脈エコー検査によりプラークの性質を調べたり、3DCTアンギオ検査で狭窄率の正確な測定を行い、また、脳血流SPECT検査により、脳循環予備能を含め実際の脳血流低下の状態をみて、各個人の病態把握を行います。内科的治療に加えて、手術を行った方が脳梗塞予防効果が強い場合、外科的治療について検討します。内膜剥離術(CEA)を行うか、頸動脈ステント(CAS)を行うかは、症例毎のデータにより決定します。基本的には、脳卒中ガイドラインに沿って治療を行っております。

浅側頭動脈―中大脳動脈吻合術

軽い脳梗塞(手や足の力が弱くなったが、リハビリで改善したり、日常生活が可能なレベルまで回復した場合)や一過性脳虚血発作(手や足が動かないとか力が弱いなどの症状が一時的に出て回復する場合)などで、その原因が、内頚動脈や中大脳動脈の閉塞や狭窄である場合、再発してしまうと重症脳梗塞となる可能性があり、血管吻合術により血流をふやして低下した脳循環予備能を回復させ、再発防止に努めます。


その場合、脳血流SPECTという検査で、脳血流が不足しているかどうか、つまり、再発しやすいかどうかを調べます。


この手術は、梗塞の再発予防の手術ですが、軽度の麻痺や、ぼっとしているなどの高次機能障害などが、血管吻合術後改善傾向を示すことがあります。

もやもや病:

年齢と発症のタイプ(梗塞タイプ、出血タイプ、てんかん発症タイプ)により、直接血行再建術、間接血行再建術、両者の併用などの、外科的治療の必要性を検討しております。てんかん発作に対しては、抗けいれん薬の内服を行います。脳梗塞の症状がでたことがある場合には、脳血流を改善するために、直接的血行再建術(浅側頭動脈‐中大脳動脈吻合術)と間接的血行再建術(脳表に筋肉などの血流のよい組織が接するようにして、年月をかけて血管が新生してくるようにする手術)を検討します。出血タイプのもやもや病にも直接的血行再建術を行った方が、脳出血の再発を予防すると学会でも発表され、当院での治療も患者さんごとに最適な治療を検討しています。

脳神経外科の手術は、脳腫瘍の手術でも脳動脈瘤の手術でも、術後の新しい神経症状の出現を最小限とし、手術後の日常生活は術前と同様にできるように、術前に運動麻痺などの症状が既に出現している場合は、少しでもその症状を改善できるように、術中電気生理学的モニタリングを工夫します。その方法として、

1)末梢神経を刺激して、頭皮上、脳表、神経上から反応を記録する。(誘発電位モニター)

2)神経や脳を直接刺激し、筋肉の動きを記録する。(筋電図モニター)

この2つがあります。当施設では、ほぼすべての脳神経のモニターを下記の通り、必要に応じて行えるようにしています。


1)

体性感覚誘発電位(SEP):知覚(感覚)のモニター

聴性脳幹反応(ABR):聴力のモニター

聴覚刺激聴神経誘発電位 (CNAP):聴力のモニター

視覚誘発電位(VEP):視力のモニター

嗅覚神経刺激誘発電位:嗅覚のモニター


2)

運動野直接刺激誘発筋電図:四肢の動きのモニター

顔面神経刺激誘発筋電図:顔面筋のモニター

外眼筋誘発筋電図:複視(物が二つにみえる)防止のモニター

瞬目反射:顔面の感覚と顔面筋のモニター

迷走神経刺激声帯誘発電位:声帯機能のモニター

副神経刺激僧帽筋誘発筋電図:首をひねったり肩を上げる筋のモニター

舌下神経刺激舌筋誘発筋電図:舌を動かす筋のモニター

片側顔面けいれん:

顔面の片側にけいれんが生じる病気です。片側の目の周囲から始まって、年月をかけて、次第に口の方へ広がり、顔面半分に広がってゆく病気です。まれに、内服薬が効果ある患者さんもいますが、主な治療は、1)ボトックス注射を3-6か月に1回行ってゆく治療と、2)顔面神経を拍動性に刺激している頭蓋内の責任血管を移動させて、顔面神経を刺激しないようにする手術があります。頭部MRI検査や筋電図検査を行って確定診断いたします。

1) けいれんの特徴

左右のどちらか片側だけの顔面の筋肉がぴくぴくけいれんをおこす病気です。目の周囲からはじまり、数ヶ月から数年経過して、同じ側の口のまわりなど顔の下の方の筋肉へとひろがってゆきます。けいれんもひどくなると目を閉じてしまうようになり、車の運転などが危険になってしまうこともあります。緊張した時や、寝不足のときなどは、けいれんが増強する傾向が見られます。通常、左右どちらかにみられ両側にみられることはありません。

2) 原因

頭蓋内の小脳橋角部というところで顔面神経を動脈が拍動性に圧迫刺激することによって、顔面神経が過敏になり、顔面の筋肉が無意識にぴくぴくと引きつれるように動いてしまう病気です。

3) 診断

上述のけいれんの特徴に加えて、我々の施設では、誘発筋電図の検査を行っております。


筋電図検査による診断:目のまわりの筋肉を動かす神経を電気刺激しても正常者では、目のまわりの筋肉から筋電図反応が得られるだけですが、目のまわりの筋肉を動かす神経を刺激して、口の周りの筋肉からも異常な筋電図反応がみられるのが片側顔面けいれんの特徴です。また、顔面筋のF波という筋電図反応を記録していますが、片側顔面けいれんの患者さんでは、F波の亢進所見を認めます。筋電図検査は、筋肉全体の動きをみるために皿電極を顔に貼り付けて記録しますので、針を筋肉に刺す必要はなく、痛みの無い検査です。


また、画像検査では、MRIとMRアンギオ検査を行い、顔面神経を刺激している動脈を同定し、また、脳腫瘍や血管奇形などがこの病気に関与していないことを確認します。

4) 手術治療

神経血管減圧術を行います。顔面けいれん側の耳の後ろ、約6-7cm皮膚を切開し、500円玉強の大きさの穴を頭蓋骨に開けます。そこから、脳神経外科手術用顕微鏡を使用して、テフロンにより顔面神経を圧迫している動脈を移動させ、動脈による顔面神経の圧迫を解除します。この減圧部分は、小脳の影になって、小脳を牽引しなければ見えにくい部分です。この圧迫血管の観察に我々は 神経内視鏡を用いて小脳の牽引を最小限にしております。神経内視鏡下に安全に減圧操作を行っております。


手術中にも筋電図検査を行い、手術操作のめやすにしています。手術後もけいれんが一過性に見られることが少なくないように、手術により顔面神経への動脈による圧迫が解除されても、 異常筋電図反応はみられることもありますが、ほぼ全例で反応が低下してくるために手術中のモニターとして有用です。


この内視鏡による観察と筋電図モニター下に減圧することで、内視鏡導入以降顔面けいれんの術後の治癒率を100%に近づけております。


いままでの我々の経験から、術後すぐにけいれんが消失する人と少しずつけいれんが消失してゆく人と、ほぼ50%ずつに分かれます。半分の方は、次第にけいれんの程度や回数が減少し、いずれは消失します。この消失までの期間の平均値は約5ヶ月ですが、半数の患者さんは、1ヶ月くらいまでに消失します。


次に記載しましたボトックス治療の効果が悪い場合や反復注射治療をさけるために、ボトックス治療をやめて手術治療を受けることも可能です。

5) ボトックス治療

高齢者や全身合併症のために、全身麻酔や術後合併症のリスクが高く、神経血管減圧術が困難な場合、また、手術以外の治療を考えられる患者さんに対して、症状を少しでも軽減する目的でボトックス治療を行っております。薬が少ないとけいれんが消失する効果が少なく、薬が多いと軽い顔面筋麻痺となる危険はありますが、次第に注射の量を調整してゆくことで、けいれんを軽度の状態に安定させることができます。約3-6ヶ月でその効果が消失してきますので、再治療が必要となります。

三叉神経痛:

片側の顔面痛で、ものを食べたとき、顔を洗った時、歯を磨いたときなどに、顔面や口腔内に電撃痛、歯医者さんで虫歯の治療中に神経に触ってずきっとくる時の痛みです。治療は、1)テグレトールやリボトリールという内服薬と、2)三叉神経を拍動性に圧迫する正常の頭蓋内動脈を手術で異動させる治療とがあります。MR検査によって圧迫血管を判定できるようになってきましたが、圧迫血管のない三叉神経痛の患者さんが数%存在します。手術で治る患者さんもおり、画像をみながら相談して、治療を進めております。

三叉神経痛の特徴と治療

1) 痛みの特徴と診断、原因

片側の顔面痛で、ものを食べたとき、顔を洗った時、歯を磨いたときなどに、顔面や口腔内に電撃痛が走るのが特徴です。三叉神経が正常の頭蓋内動脈により拍動性に圧迫されることが原因です。痛みは左右どちらかにみられ両側にみられることは通常ありません。脳腫瘍が三叉神経痛の原因となることが、1%以下あると言われており、また、圧迫血管ではなく神経の癒着が原因のことも少数みられます。

2) 手術治療

1) 手術は、神経血管減圧術を行います。顔面痛側の耳の後ろ、約6-7cm皮膚を切開し、500円玉強の大きさの穴を頭蓋骨に開けます。そこから、脳神経外科手術用顕微鏡を使用して、テフロン片により圧迫血管を移動させて三叉神経の圧迫を取り除きます。また、神経の癒着やよじれを可能な限り、解除します。


2) 術中モニター:手術合併症として、聴神経が弱いため、片側顔面痙攣と同様に聴力障害が出る可能性があり、手術中に、聴性脳幹反応(ABR)といって、聴力のモニターを行います。


3) 術後経過観察:三叉神経痛は、手術直後から消失する患者さんが多いですが、少し痛みが残り、しばらくしてから痛みが消失する患者さんもおります。

顔面けいれん外来では

顔面けいれんが強くなって、目がとじてきてしまい仕事に支障を来すなどで、治療を検討したい場合に受診してください。また疾患の相談は紹介状なしでもかまいません。ボトックス注射で症状を軽減させるか、根本的治療として神経減圧術を受けるか、方法やリスク、治療後の経過などについてお話しします。まず、ボトックスの治療を受けて症状の軽減を図り、手術治療を受けようと思われた時に再検討することも可能です。片側顔面けいれんと診断がはっきりしない場合は、筋肉の反応をみる筋電図検査で診断することも可能です。

今までの我々の代表論文として、ボトックス治療の効果を示す論文(Ishikawa M et al. Treatment with botulinum toxin improves the hyperexcitability of the facial motoneuron in patients with hemifacial spasm. Neurol Res 32:656-660, 2009.) や神経減圧術の治癒率を100%に近づけるための論文(Ishikawa M et al. Microvascular decompression under neuroendoscopic view in hemifacial spasm: rostral-type compression and perforator-type compression. Acta Neurochir (Wien) 157:329-332, 2015.)、日本語での総説(石川眞実他.片側顔面痙攣の顔面神経核の興奮性亢進-顔面筋F 波による解析-.脳神経外科ジャーナル 19:50-56, 2009.)を発表しました。

三叉神経痛外来では

痛みの特徴から診断できますが、まず、内服治療を検討します。痛みが強くなって内服の量が多くなり、それでも痛みがコントロールできなくなってしまった場合には、手術治療を考えます。それぞれの患者さんの段階に応じた治療をご相談させていただきます。頭部MR検査で、まれな原因である脳腫瘍がないことを確認して、圧迫血管を同定します。圧迫血管がなくても、全く同様の顔面痛になることがあります。その場合も痛みが強ければ、同様の神経減圧術で三叉神経の癒着を取り除けると、顔面痛も消失します。ゆっくり安心して食事がとれるようになります。再発が少なくないこの手術では、圧迫血管を取り除くための手術の時に、あらたな癒着ができないようにすることも重要です。再手術後再発の難治性三叉神経痛に対しては、高精度定位放射線治療(トモセラピー)の段階的治療も検討中です。

 圧迫血管のない三叉神経痛の減圧術で、内視鏡で確実に癒着を取り除いて完全に三叉神経痛が消失した症例を報告しました。(Ishikawa M et al. Straightening the trigeminal nerve axis by complete dissection of arachnoidal adhesion and its neuroendoscopic confirmation for trigeminal neuralgia without neurovascular compression. Interdisciplinary Neurosurgery. 2017;10:126-129.)