肘の内側側副靭帯損傷(UCL損傷)
肘の内側側副靱帯(UCL損傷)について
肘の内側側副靱帯(UCL)は、肘の内側で関節を支える大切な靱帯です。特に野球の投球動作では大きな負担がかかるため、投球を繰り返すことで傷んでしまうことがあります。
当院では、診察・画像検査・評価を行い、保存療法から手術まで幅広く対応しています。
内側側副靱帯(UCL)とは
UCL(Ulnar Collateral Ligament:内側側副靱帯)【図1】は、肘の内側にある靱帯で、肘を安定させる役割があります。
投球動作ではこの靱帯に大きなストレス【図2】がかかるため、野球選手、特に投手では損傷しやすい部位として知られています。
どのように起こるのか
UCL損傷は、1回の強い負担で起こることもありますが、多くは投球動作の繰り返しによって少しずつ傷んでいきます。
- 投球数が多い
- 疲労がたまっている
- 投球フォームが乱れている
- 肩や股関節、体幹の動きがうまく使えていない
- 肘に負担が集中している
このような要因が重なることで、肘の内側の靱帯に負担がかかり、痛みや不安定感が生じます。
主な症状
- 投球時、または投球後の肘の内側の痛み
- 肘の内側の違和感や張り感
- 全力で投げにくい、痛みで投げられない
- 肘が伸ばしにくい、曲げにくい
- 症状が進むと、日常生活でも痛みを感じることがある
診断
まずは、いつから痛いのか、どの動作で痛いのか、投球量や競技レベルなどを確認します。そのうえで、肘の状態を実際に診察し、必要に応じて画像検査を行います。
- 肘の内側を押したときの痛み(圧痛)の確認
- 肘の動く範囲(可動域)の確認
- 靱帯に負担をかけたときの痛みや不安定性の確認
※診察では、外反ストレステストなどを行い、肘の内側の靭帯に痛みや不安定性がないかを確認します。
外反ストレステスト
画像検査
レントゲン検査
骨の変形、骨棘(こつきょく)、による骨の変化などを確認します。靱帯そのものは見えにくいですが、肘に繰り返し負担がかかっていた痕跡が分かることがあります。
MRI検査
UCLの損傷の程度や、周囲の組織の状態を詳しく確認する検査です。部分断裂なのか、完全断裂なのかを判断するうえで重要です。
超音波検査(エコー)
超音波検査では、肘を動かしながら靱帯や関節の状態を確認できます。左右差や、関節の開き具合、不安定性の評価にも役立ちます。
関節が不安定な場合に見られる Ring Down Artifact(RDA)
治療
治療方針は、症状の強さ、診察所見、MRI検査や超音波検査の結果、競技レベル、復帰希望時期などを総合的にみて決定します。
まずは保存療法を行うことが多く、損傷の程度や回復状況によっては手術を検討します。
保存療法
- 投球制限・休養
- リハビリテーション
- 装具やテーピングによるサポート
- フォームの見直し
- 必要に応じた注射療法
リハビリでは、肘だけでなく、肩・肩甲帯・体幹・股関節の状態も評価し、可動域の改善、筋力強化、フォーム改善を進めていきます。
PRP療法
PRP療法は、ご自身の血液から傷の修復を助ける成分を取り出し、損傷部に注射する治療です。軽度から中等度の損傷で適応を検討します。
超音波を確認しながら注射を行うことで、損傷部をねらって治療します。外来で実施可能です。
治療内容
①伝達麻酔を行います
②UCLに注入:エコーを見ながら注射を行っています
通常復帰の目安
手術療法
保存療法で改善が乏しい場合、完全断裂がある場合、早期の高い競技復帰が求められる場合などには、手術を検討します。
トミー・ジョン手術(UCL再建術)
損傷した靱帯を、自分の腱を使って再建する手術です。重度の損傷や完全断裂で選択されることが多く、競技復帰を目指す選手に広く行われています。
術後の復帰目安
インターナルブレース法(靭帯修復+補強)
傷んだ靱帯を修復し、人工素材で補強する方法です。部分断裂で靱帯の質が比較的保たれている場合などに適応され、再建術より早い復帰が期待されることがあります。
競技復帰の目安
復帰時期は、損傷の程度、治療方法、競技レベル、リハビリの進み具合によって変わります。あくまで一般的な目安であり、実際には個別に判断します。
| 治療法 | 復帰の目安 | 補足 |
|---|---|---|
| 保存療法 | 数週間~数か月 | 損傷の程度や痛みの改善状況により異なります |
| PRP療法 | 数週間~数か月 | 段階的に投球を再開します |
| インターナルブレース法 | おおよそ6~9か月 | 症例により異なります |
| UCL再建術 | おおよそ12か月前後 | 投球開始は術後数か月から段階的に進めます |
当院での治療方針
- 保存療法から手術療法まで幅広く対応します
- 部分断裂では、状態に応じてPRP療法とリハビリを組み合わせて治療します
- 完全断裂や競技レベルに応じて、再建術または修復術を検討します
- 術後も医師とリハビリスタッフが連携し、安全な競技復帰を支援します